我々は、店舗を支援する際に店主にこのように伝えることにしている。売上を上げるのではなくて、売上が上がらない要因を取り除く。地方店舗で売上が上がらない(売上が上がるのを妨げている)ことは下記のような言葉で表現される。
・新規客が来ない
・高い商品が売れない
さらに、そもそもお客が来ない(来なくなった)というのもある。お客が来ないから商品が置けない。商品が無いからますますお客が来ないと悪循環となっている場合もある。
かつては商売もうまくいっていたにもかかわらず、店主へなぜ売上が下がったのか?と尋ねると、おおむね下記のような返答が返ってくる。
・地域で人口が減少している
・顧客の高齢化が進んでいる
・近隣に大型店ができて安売りしている
・みんなインターネットで買う
これらは、すべて外部環境の変化によるものだが、これらの外部要因に向き合うために、どんな障害があるのか?と尋ねると、下記のような答えが返ってくる
・店が古いから(新しくしたいけど資金が不足)
・広告宣伝が足らないから(チラシを入れたいけれど宣伝費が不足)
・SNSをやっていないから(やり方がわからない)
・インターネット販売やってないから(ノウハウがない)
しかしながら、我々が見る限り、要因は別にある。
倉庫か自宅かわからない、とても店舗には思えない場合もあれば、店舗の内外や商品の汚れがひどい場合もある。いったいいつの時代からあった商品なのか?とほこりをかぶったものもある。こうなるとまずは掃除が必要となる。実際に売上が上がらないのは掃除が行き届いていないことも大きい。お金を払う立場であればよほど必要に迫られない限り、わざわざ汚ない店舗に入ってほこりにまみれた商品を手に取ることはないだろう。名古屋市内においてもこのような店舗は少なからず存在する。
このようなお店は改善すれば売上はすぐに上がる。我々も実際に現場では掃除からスタートする。店舗は店主のものであるが、お客さんがお金を払う場所でもある。
売上が上がるのを妨げている要因を解決すれば売上は上がる。それにお金をかける必要なはい。売上が上がらない要因のほとんどは店舗空間の問題である。
店舗空間の考え方は、時代とともに大きく変わっている。かつては人と人の対話が商売であったのが、欧米からセルフサービスの概念が導入され、店舗は大型化、直近では決済もセルフ化されるなど、店主の対話を重視した商売から顧客が主体性を持った買い物へと転換している。もちろん人と人との対話が商売において重要なことは明らかである。店舗を顧客型に改革した上での対話型商売が重要である。
さて、なぜ店舗空間が重要なのか?また売上増加に効果的なのか?
かつては対面での商売を基本としていた小売業。グローバル化が進むにつれて顧客自らが商品を見つけ選択し購買するという主体的な購買行動に変わってきた。これはモノが主であった成長期から成熟期に日本が移行したことにある。モノを手にする手段は多様化しほとんどのモノは手に入る。最近の消費性向では必需品は最低限に済ませ嗜好品に多くの消費が費やされていることは明らかである。必需品である食品すら嗜好品となっていて、必要だから買う安い商品と奮発して贅沢を満喫する高価格商品の二極化が進んでいる。これは成熟社会の傾向であると思う。
ところが店舗空間へのテコ入れをしないで、看板や内装のような平面的なものを導入して空間の課題を解決しようとする。我々がかつて家電量販店に勤務していた30年前、家電販売ではいかに価格を安く見せるかという表示が商売の核となっていた。
値引額を大きく見せるための価格二重表示や、商品サイズをはるかに越えるサイズの大型の黄色いプライスカード。ここには大特価、本日限り、〇%引き、〇台限りなど、購買意欲を高めるのは価格とばかりに、黄色のプライスが店内を埋め尽くしていた。当時は価格がもっとも効果が高いPRだった。家電量販店ではまだその習慣から脱却できないでいる。なかなか変われないのは過去の成功体験がある。
地方店舗でも過去の成功体験が革新を妨げていることは多い。改革を提案すると店主からよく言われることがある。「それは過去にやった、効果がなかった」という言葉。過去の成功体験からあらたにチャレンジを試みたであろう。しかしそれは成功体験を塗り替えるほどの効果が出なかった。当時は時代を先読みしてチャレンジした。今の時代には効果が出るかもしれないならやってみてもいいと思うのだが、なかなかそうはいかない。人がいちばん変わらない。
マーケティング概念は、経済成長を前提としている。商圏を拡大させ競争環境の中で他社との差別化をはかり優位性を獲得する。しかし日本はどんどん競争環境が弱くなっている。地方はなおさらである。同業他社は廃業し商圏内での寡占化が進んでいる。こうした経済縮小化でのマーケティング概念はまだ生まれていない。
家電量販店は玩具や家具、リフォーム。ドラッグストアは生鮮品。家具は雑貨や家電製品。多様化はすでに始まっている。むしろ専門性に特化した業種業態では地方では生き残れない。
事例として後述するが、商圏が縮小する環境下の戦略は差別化ではなく多様化である。
このように時代変化による消費者の購買傾向が大きく変化する中、中小企業庁では補助金をつけて店舗の活性化を促しているものの、我々が思うにその使途には疑問がある。何かとお金をばらまくように企業支援を進める国の姿勢にならって地方でもお金を事業者に与えて活性化を促す。本質的な店舗の空間改善に取り組まない限り、平面的な手段の提供は税金の無駄使いと言わざるを得ない。
店舗の経済活動は、店舗という場所において、購買意欲を高め、必需品ではなく嗜好品の販売につなげること。それの多くは計画性ではなく衝動的な購買である。地方店舗では顧客に衝動買いを促す必要がある。衝動買いと連動するのが滞在時間。滞在時間を決めるのが店舗空間である。
つまり店舗の滞在時間が増えれば、衝動買いが起き客単価も買い上げ率も向上する。滞在時間を増やためには店舗空間の改革に着手するしかない。
店舗での購買を増やすためには、3つの課題がある
1.店舗外の課題
2.店内と商品陳列の課題
3.接客とサービスの課題
1.店舗外の課題で、よくある実態として
・ ポスターがガラス面に貼ってあって店内が見えない。
・ 外にゴミなど捨てるものが置いてある
・ 生活品(洗濯物、植木鉢、自転車など)が置いてある
2.店内と商品陳列の課題で、よくある実態として
・ 店内入り口とレジが近い。店主から見張られている気がする。店へ入ると出にくい。
・ 店内通路が狭い。通路に荷物、歩けない
・ ただ並んでいるだけの陳列。品揃えの少なさや鮮度に魅力を感じない
・ 商品のありか(ゾーニング)がわからない。店主に聞かないとわからない
3.接客とサービスの課題として
・ レジ周りが雑然、どこで会計したらよいかわからない
・ あきらかに常連客でないとは入りにくい。怪しい目で見られる
・ 案内情報やポスターが古い、または正しくない
店舗の本質を、基本から見直し、創造性に発展させること、あらためて求められるべきである。
Comments