地方で経営に苦しんでいる店舗は少なくない。顧客の減少と高齢化、商圏内の人口減少、大型店との競争、インターネット通販など外部の競争環境は厳しくなっている。そのため店舗や売り方、商品が今の消費者からは支持されなくなりつつある。
我々は2014年から現在まで10年間にわたり、鹿児島県や秋田県、愛知県、岐阜県等の公的な中小企業支援機関に在籍し、5000者を越える中小企業支援を行ってきた。 現在も公的機関にて企業支援を行っている。かねてから公的機関の中小企業支援が事業分析やアドバイスに留まるのみであることに納得感が得られず、支援の先には必ず成果があるべきと考え、事業者にとっての成果を生み出すことにこだわり続けてきた。
中小企業支援において成果を生み出すため、小売流通業での経験を活かして、店舗等の場所を有する小売業やサービス業、飲食業や宿泊業、民間施設等において、店舗改装による売上向上支援を進めてきた。対象となった店舗は様々な業種。約10年間で160店舗の改装におよび、改装を実施した9割の事業者は売上向上等の成果が得られている。公的機関の企業支援スキームを活用することで、お金をかけずとも売上を向上させることができるノウハウと経験値を蓄積してきた。
こうした支援を進める中で感じたことがある。いまの顧客が求めている店舗の期待値に、地方の店舗の価値を再構築できたら、地方店舗は再び蘇るのではないか。顧客志向に磨き直すことにより再生ができるのでは。
地方店舗は長年にわたり変化することなく存在している。地方では競争も弱く、現在店舗に来ている既存顧客は今の店舗に何の不満もない。しかし、新規顧客の減少は続いている。時代に合わせた変化が必要であるにもかかわらず、店舗がその変化対応にかなり遅れている。手を打てば確実に蘇るのにもかかわらず、自らの衰退をネット通販や顧客のせいにし続けている。事業者も支援者もそれに気づけていない。
日本の人口減少が加速化している。特に地方は減少が顕著である。実際にこうした地方に居住してみると、その地に暮らす意味についても考えざるを得ない。食べるためにお金を稼げる仕事があれば地方は蘇るわけではない。自然に恵まれただけでは生活の豊かさは得られない。
憲法第二十五条では、国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するとある。地方ではその文化的な暮らしを支えるための商業機能が失われつつある。知らないうちにこうした人口減少が進む地にいることで、文化的な生活とはただ食べて生きているだけの最低限へと近づいていく。地方は文化的でなくなっている。
お金をかけない地方商業の活性化を「0円店舗再生」として、各地で実践を行っている。お金をかけなければ店舗は良くならないのではないか、そのために補助金や融資を活用するなどが風潮であるものの実際にお金をかけられない、かけたくない事業者も多い。店舗事業が再生できないのは資金の不足問題ではない。顧客志向に戻れるかどうかのアイデア不足にあって、決してお金をかけないと再生できないわけでない。むしろ今の価値を活かすことに資金は必要ない。
実際に改装を行った後、店舗事業者のモチベーションは激変する。
今までの怠慢を反省し、再スタートのきっかけとして頑張ることを明言する。こうした既存事業者の再生が疲弊していく地方こそ再生が急務である。新規参入の若者を期待しているだけでは地域商業は活性化しない。怠けた地域事業者は若者から見限られていく。
この「0円店舗再生」のノウハウを、事例をさかのぼり体系化した。
店舗にもともと存在している経営資源を利用して、内装や設備等にお金をかけないで店舗事業を活性化させるというアイデアを生み出す手法を、事業者や支援者へと広めたい。
この例を参考に実践する事業者やそれを支援する団体や支援者を通じて国内店舗をより多く活性化させることを望みたい。日本が海外からの評価が高いのは、自然資源の価値のみならず、安全な田舎である人の良さの魅力でもある。人の良さに加えて経済活動が高まることで、地方の再生を進むと思う。地方の実践が必要である。
なお、ここに登場する事例で登場する事業者さんや支援者さんは、その地域で地域を活かす取り組みに長年真摯に取り組んでいる人たちで、我々が愛し尊敬する人たちでもある。
事業は事業者のもの、事業者ご自身が自分の店舗に向き合う中でぶつかる様々な悩み、その一時期を一緒に向き合わせていただいたことに感謝の念は絶えない。片思いもあるかもしれないが、皆さん愛しい人たちである。
事例に出てくる愛すべき人たちは、当時の所属や役職であることをご理解いただきたい。
この愛すべき人たちの絶え間ない努力によって、地域の商業がより個性的、独創的でありますように。そしてこの改革によって、衰退しつつある地方がもう一度輝きますように。
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